前の記事までで、テーマとコンセプト、シナリオの概要、あらすじも決まり、プラットフォームも選びました。構成についても学びました。
キャラクターについて、前の3つの記事で差別化の仕方、関係性の作り方、バックストーリー、秘密、目標、プレイヤーのプレイ方針について書きました。
キャラクターについて、7つのカテゴリーについては今日で終わりです! 頑張って書くので頑張って読んでください。今日の内容にはこれまでの記事が関わってくるので、ぜひ前の記事を読んだうえで読んでください。
おさらい:キャラクター創作の7つのカテゴリー
前々回の記事で触れた、キャラクター創作の7つのカテゴリーをおさらいします。
「工学的ストーリー創作入門」の7つのカテゴリーを私がマダミスに置き換えたものです。
- 表向きの顔と性格……キャラクター選択画面で見える姿
- バックストーリー……最初に配られる個別資料に書かれた内容
- 内面の悪魔との葛藤……キャラクターの秘密や葛藤
- ゴールと動機……キャラクターの目標
- 世界観(信念体系や倫理観)……バックストーリー・葛藤・ゴールを読み取ってプレイヤーが決めるプレイ方針
- キャラクターアーク(キャラクターの学びと変化)……議論や調査、投票を経てキャラクターに起こる変化。成長でも悪化でも良い。
- 決断・行動……議論中・投票・アクションフェーズでの決断・行動
キャラクターアーク(人物のアーク)とは?
キャラクターが物語の中で体験する学びや成長、変化をキャラクターアーク(人物のアーク)と呼びます。arcとは弧という意味です。
- 主人公がある状態で登場する。
- 主人公が困難な状態や葛藤に直面する。
- 主人公が成長(あるいは悪い成長)をする。
これが基本です。キャラクターは、物語の最初と終わりで変化が無ければいけません。変化が無いキャラクターは脇役であるべきです。
プレイヤーがいるキャラクターには変化が必要
たとえば、長期連載の少年漫画で、途中のエピソードで主人公が脇にいて、途中のエピソードだけ違うキャラクターが主役にいることがあると思います。
そのエピソードにおいてはそのキャラクターが変化をするため、主役にいるのです。
物語は変化をするキャラクターの視点で語られるべきですし、変化をするキャラクターに感情移入するから読者はハラハラしたりワクワクしたりします。
マーダーミステリーではNPC(ノンプレイヤーキャラクター)を除いて、すべてのキャラクターが主人公です。それぞれのプレイヤーにとってそのキャラクターは主人公なのです。
つまり、すべてのPC(プレイアブルキャラクター/プレイヤーキャラクター)は変化が必要なのです。
変化は内面の変化が必要
変化とは、内面の変化です。状況が変わったとしても、それはキャラクターアークにおける変化には入りません。
たとえば「金に困ったキャラクターが10億円を手にする」という状況を考えてみましょう。
良くない例1
金に困ったキャラクターが、突然、遠縁の親戚の遺産として10億円を手にしたとします。
このように意図せず、何の苦労もなく手にしてしまった大金は、キャラクターにとって良い状況の変化ではありますが、キャラクターの内面は特に変化をしていません。
多少、金に余裕ができて安心したり、突如入った大金の使い道に悩んだりするでしょうが、物語として体験して面白い変化ではないでしょう。
むしろ、この大金が突然悪い輩に狙われて……というような冒険の幕開けに使えるかもしれません。
良くない例2
金に困ったキャラクターが、大富豪の遺産を得るために、大富豪が主催した遺産争奪ゲームに参加したとします。
激闘の末、キャラクターが遺産の10億円を手にした場合、きちんとキャラクターアークと呼べる変化があると言えるでしょうか。
大分近くなりましたが、これでも足りません。
キャラクターの内面の変化が無いからです。あるかもしれませんが、描けていないからです。
良い例
金に困ったキャラクターが、大富豪の遺産を得るために遺産争奪ゲームに参加し、ゲームの中で仲良くなった仲間の命か10億円かを選ばされ、これまでの自分ならば金を選ぶところ、決死の覚悟で仲間を選ぶ。
この場合、10億円は手にしていません。金が欲しかったはずです。しかし、キャラクターが手にしたのは仲間との友情です。
キャラクターにとって最初に本当に欲しかったものと違ったものを手にしていますが、ここにはキャラクターアークと呼べる変化が存在します。
- 登場時の状態=金に困っているから何より金を優先する
- 困難な状況=遺産争奪ゲームで仲間の命か10億円を選ばなければならない
- 変化=金よりも仲間を優先するぐらいの「友情」を得る
という変化がキャラクターアークと呼ばれる変化です。
もちろん、登場時の目標と違うものである必要はありません。
目標通りのものを手に入れても良いです。
ただし、手に入れたことで心情が変化することが必要です。
- 登場時の状態=金に困っているから何より金を優先するが、殺人まではしない小悪党
- 困難な状況=遺産争奪ゲームで仲間の命か10億円を選ばなければならない
- 変化=仲間より金を優先し殺人をいとわない悪の道に堕ちる
というような悪の変化でもキャラクターアークと呼べます。
キャラクターアークの要素1:登場時の状態
登場時の状態は、キャラクター選択画面で見える情報と最初の個別情報に書かれている情報と考えれば良いでしょう。
登場時の状態として、何か「葛藤」を抱えていると良いでしょう。
詳細は「内面の悪魔との葛藤……キャラクターの秘密や葛藤」の項を読んでください。
まとめると……
- キャラクターには事件解決に乗り気でない理由がある
- 乗り気でない理由はばれたくない秘密や、何らかの葛藤
- マダミスにおいて秘密はばれ、葛藤には直面し変化せざるを得ない
ということです。
キャラクターアークの要素2:困難な状況や葛藤に直面し立ち向かう
キャラクターは困難に立ち向かわねばなりません。
マダミスにおいて、キャラクターが直面する困難とは主に事件でしょう。
事件に直面し、事件解決に向かって話し合い、調査し、犯人を捜す過程そのものがキャラクターにとって困難に立ち向かう行為です。
キャラクターアークの要素3:主人公の成長(あるいは悪い成長)
キャラクターは物語の最後、成長あるいは悪い成長をせねばなりません。成長とは、内面の変化です。
必ずしも幸せになる必要はありません。悪い道に堕ちるのも変化です。
どのような選択をしても、あるいは選択をしなかったとしても、何らかの変化が必要です。
そして、この変化は、キャラクター自身の行動に起因するものでなければならないのですが、プレイヤーの選択や決断によるものであればなお良いです。
プレイヤーの選択や決断については、次の項で書いていきます。
もっとキャラクターアークについて読みたい方はこちらをどうぞ Webで無料で読める部分だけで、キャラクターアークについて詳しく知れます キャラクターからつくる物語創作再入門 https://story.nola-novel.com/knowhow/charactersousakusainyuumon
キャラクターバランスが悪いの正体
キャラクターバランスが悪いと言われたり、一人だけキャラクターの満足度が低かったり……
その場合、キャラクターアークを見直してみましょう。一人だけキャラクターアークが十分でなかったりしませんか?
逆に、一人のキャラクターアークに他のキャラクターが寄与して、他のキャラクターが成長していなければ、これもバランスが悪くなります。マダミスは漫画や小説ではありません。すべてのプレイヤーがいるキャラクターがプレイヤーにとっての主人公です。脇役を作るべきではないですし、脇役が必要ならば思い切ってNPCにしましょう。
決断・行動……議論中・投票・アクションフェーズでの決断・行動
ついに7つのカテゴリーの最後です。ここまではキャラクターについて書いてきました。
マーダーミステリーと漫画や小説の違いとして、マーダーミステリーのキャラクターには、NPCを除いて、すべてプレイヤーがいます。
葛藤や対立はキャラクターの心にあるものですが、同時にプレイヤーの心にも発生しています。
プレイヤーがどうプレイするかを決めるのがプレイの方針でしたが……プレイ中、プレイヤーは小さい決断や行動を繰り返します。何を話すか、何を隠すか、誰と話し、何の情報を得るか……。
プレイ中は小さい決断の連続ですが、一番大きな決断を用意しましょう。
感情曲線でいえば一番盛り上がるところです。そして、一番プレイヤーの心に残るところでもあります。
エモの作り方
ここで、最初に決めたテーマを思い出しましょう。
テーマが「にゃんにゃんRPが楽しかった」というのなら、全編通して楽しんでもらえればいいのですし、「推理が解けてうれしい」作品なら推理に重きを置けばいいのですが、「エモかった」を作りたいならば、ぜひこの手法を使いましょう。
この決断は、テーマをプレイヤーの心に残す絶好の機会です。
たとえば、
- 秘密を思い切って打ち明けて変化を得る
- コンプレックスを打破してポジティブな変化を得るか
- コンプレックスを打破できずにネガティブな変化を得る
など……キャラクターの秘密や葛藤にまつわる二者択一をプレイヤーに突き付け、プレイヤー自身に葛藤させ、選ばせることで、プレイヤー自身の感情が動きます。
エモいの正体
よく言う「エモい」の正体はこれだと考えます。エモとはエモーショナル、つまり感情が動いたという意味です。
エモを作りたければ、テーマを決め、キャラクターの秘密や葛藤を明確にし、その秘密や葛藤について、プレイヤー自身によって選択し決断してもらえばいいのです。
そして、その決断の結果がキャラクターアークの変化に繋がれば、満足感が高まります。
キャラクターについて長く書いてきたのが、ようやくまとまりました!
つまり、キャラクターのすべてはプレイヤーの感情をある1点=クライマックスで大きく揺さぶるための感情装置なのです。
もちろん、推理重視の作品ではここまでキャラクターに注力しなくても良いでしょう。キャラクターの心情に寄り添った決断を用意しなくても良いかもしれません。
秘密や葛藤、キャラクターアークが無くとも、推理を楽しめれば十分でしょう。
逆にエモい作品を作りたければ、キャラクターに注力すれば、エモさが生まれるのではないでしょうか。
まとめ
キャラクターの7つのカテゴリーについて、ようやく書ききりました!
知識について全部書ききったので、明日はいよいよキャラクターの作り方の手順について書いていきます。お楽しみに。
マダミスアドカレチャレンジについて
マダミスアドカレチャレンジと題して、マダミスの作り方を12月1日~25日で書けるだけ書いくチャレンジをしています。
チャレンジ終了後、記事は一部非公開にして、pdfの電子書籍+穴埋めフォーマットを付けてBOOTHなどで販売予定です。
クリスマスまでの間、しばしお付き合いください。明日もどうぞお楽しみに。
アドカレへの飛込参加も大歓迎です。お気軽にどうぞ。
https://adventar.org/calendars/8221