前の記事までで、テーマとコンセプト、シナリオの概要、あらすじも決まり、プラットフォームも選びました。構成についても学びました。
キャラクターについて、前の2つの記事で差別化の仕方、関係性の作り方について書いてきました。今日はキャラクターを深堀していきましょう。
おさらい:キャラクター創作の7つのカテゴリー
前々回の記事で触れた、キャラクター創作の7つのカテゴリーをおさらいします。
「工学的ストーリー創作入門」の7つのカテゴリーを私がマダミスに置き換えたものです。
- 表向きの顔と性格……キャラクター選択画面で見える姿
- バックストーリー……最初に配られる個別資料に書かれた内容
- 内面の悪魔との葛藤……キャラクターの秘密や葛藤
- ゴールと動機……キャラクターの目標
- 世界観(信念体系や倫理観)……バックストーリー・葛藤・ゴールを読み取ってプレイヤーが決めるプレイ方針
- キャラクターアーク(キャラクターの学びと変化)……議論や調査、投票を経てキャラクターに起こる変化。成長でも悪化でも良い。
- 決断・行動……議論中・投票・アクションフェーズでの決断・行動
前回の記事で、キャラクターを対比して置いてみて、「表向きの顔と性格」つまりキャラクター選択画面で見える姿についてはなんとなくキャラクターが出来てきたのではないでしょうか。
※電子書籍化の際には、穴埋めしていったらシナリオやキャラクターができる穴埋めシートも付属する予定です! お楽しみに。
関係性の段階では、キャラクターはなんとなくで十分です。キャラクターを深堀した後に、また関係性を調整して、また深堀して……を繰り返してキャラクターを作っていきます。
では、深堀はどうやって行けばいいのでしょうか。7つの要素を順に説明した後、作り方も解説します。
バックストーリー……最初に配られる個別資料に書かれた内容
バックストーリーとは?
バックストーリーとは、最初に配られる個別資料に書かれる内容であり、キャラクター選択画面およびオープニングがはじまるまでにそのキャラクターが生きてきた人生すべてを差します。
言葉の定義はこうですが、人生全てを細かく考える必要はありません。
バックストーリーは、「なぜ表の顔がそのような顔か?」という疑問に答えるものです。
そして、「まさかそんな理由でそういう表の顔だったなんて!」という驚きを与えるものでもあります。
「マダミスの構成を知ろう」の記事で、感情曲線の話をしましたが、最初の「感情の波が大きく動くポイント」はここ、個別資料でバックストーリーに触れた瞬間です。
表の顔とバックストーリーにギャップを作ろう
表の顔とのギャップが大きければ大きいほど、あるいはプレイヤーが予想していた顔から外れれば外れるほど、プレイヤーは感情が動き、キャラクターに愛着を持ちます。
たとえば、キャラクター選択画面では「敬虔なシスターで、孤児院の子供たちに慕われている」と紹介されたキャラクター。
実は裏では孤児を使って麻薬の密売をしているかもしれません。警察に怪しまれないように敬虔なシスターのフリをしているのかもしれません。けれど、麻薬の密売をしているのは子供たちのためかもしれません。悪に手を染めるシスター、私は大好きです。
たとえば、キャラクター選択画面では「見るからに悪役令嬢。ヒロインである田舎出身の姫のマナーにケチを付けている」とあるキャラクター。
実は裏では本当に姫のためを思ってマナーを指導しているだけかもしれません。なのに、顔が悪役っぽいきつい美人ゆえに勘違いされて、本人もそれを悩んでいるかもしれません。良い人なのに悪人に勘違いされる人、私は大好きです。
キャラクターの表の顔と裏の顔のギャップを巧みに使っているのが、今人気の「SPY×FAMILY」です。1話だけでもぜひ読んでみてください。 https://shonenjumpplus.com/episode/10834108156648240735
ロールプレイしたくなる魅力のあるキャラクター
ここで大事なのは、プレイヤーがキャラクターを「好きになる」必要は必ずしも無いということです。「ロールプレイしたくなる魅力のあるキャラクター」であれば十分です。
マーダーミステリーが事件を扱い、犯人が存在する以上、どうしようもないクズキャラクターを作る必要があるかもしれません。でも、魅力的なクズはいます。
「ギャンブルに溺れて借金まみれのクズだが、猫を殴っていた金持ちを見て、猫を救うために金持ちを殺した。表の顔は金持ちの衣服を奪って着たので身なりが綺麗な成金に見える」みたいなクズ、好きとは言えないかもしれませんが、嫌いになれないでしょう。
まだクズが好きになれなくても、犯行を隠し、助けた猫を病院に連れて行くという目標があったらどうでしょうか。猫のためを思うクズの心に惹かれ、クズの犯行を隠すプレイをプレイヤーはついついしてしまうでしょう。
ロールプレイしたくならないキャラクター
逆に、「ロールプレイしたくならないキャラクター」には注意しましょう。
大量殺人犯や、殺し屋、マフィアなどフィクションの中でしか触れないような「悪人」は許容できることが多いです。
しかし、痴漢、盗撮犯、ポイ捨て犯、DV加害者、パワハラ上司、クレーマーなど……
身近にいて、なおかつ被害を受けた人も多いような犯罪者やハラスメント加害者はロールプレイしたくない人も多いでしょう。
悪人は思い切り悪人にしましょう。
ただし、人によって地雷は様々なので、配慮しすぎると筆が止まってしまうので、「自分はそのキャラクターをプレイしたいか」で判断すると良いでしょう。迷ったら周りの人に聞いてみましょう。
ちなみに私の地雷は「良い親」「仲のいい家族」です。万人の地雷に配慮するのは無理という例です。
バックストーリーのまとめ
バックストーリーは最初に配られる個人情報で明かされるキャラクターの裏の顔です。
マーダーミステリーをプレイする上で、一番最初の「感情の波が動くポイント」です。
表の顔からプレイヤーが想定していなかった裏の顔を用意しましょう。ギャップは大きければ大きいほど良いです。ギャップを用意することで、プレイヤーがキャラクターに驚き、愛着を持てます。
内面の悪魔との葛藤……キャラクターの秘密や葛藤
次は内面の悪魔との葛藤です。マダミスに即していうならば、キャラクターの秘密や葛藤です。
普通、マダミスでは何らかの事件が起き、その解決のためにキャラクターが議論し、調査し、何らかの投票を行い、エンディングがあるはずです。
何らかの事件が起きた時、特に殺人事件という凶悪犯罪であれば、普通なら警察にすぐに連絡して警察の求めに応じて事件解決に協力するでしょう。
しかしマダミスは往々にして警察に連絡しませんし、事件解決に協力的でもありません。
警察に連絡するような真っ当な行動をとらない理由があり、なおかつ事件解決を全員がまっすぐに目指さない理由があります。
余談:警察に連絡しない理由
警察に連絡しない理由は世界観や状況設定でも作れます。
- 警察が無い……剣と魔法の世界のようにファンタジーで警察が存在しない世界観など
- 警察が必要ない……事件自体が小さな事件で警察に通報するようなものではない
- 警察と通信できない……警察に連絡したいが雪山で通信が遮断されているなど
- 警察と通信したが来れない……吊り橋が落とされていて復旧に3日かかるなど
- 警察の監視下での話し合い……容疑者が集められて話し合う状況
など、色々と考えられます。
理由は何でもいいですが、「警察に連絡しない理由」はオープニングの段階で絶対に分かるようにしておきましょう。議論の冒頭で「なんで警察に連絡しないの! あなた達が犯人でしょう!」という無駄な会話が生まれてしまいます。
なお、「なんで警察に連絡しないの!」という会話をさせたいならばあえて「警察に連絡しない理由」をオープニングで設定しないのもアリです。キャラクター個別に理由を設定しておいて、その理由を話すことで他のキャラクターの理解に繋がるかもしれません。
とはいえ、意図が無いならば設定しておくのが無難です。
事件解決に積極的でない理由
余談が長くなりました。「警察に連絡しない理由」はオープニングまでで設定すべきで、キャラクター設定からは余談です。
キャラクターに設定したいのは事件解決に積極的でない理由です。
事件解決に協力すると不都合な秘密が明らかになる、というのが多いでしょう。
では、不都合な秘密とは何でしょうか。
- 事件の犯人である
- 盗みや器物損壊など別の小犯罪がばれる
- 隠している正体(バックストーリー)がばれる
などが挙げられます。
秘密がばれる以外にも、何らかの葛藤があるかもしれません。
- 犯人だと思っている人物が自分の恋人
- なんらかのコンプレックスがあり、積極的になれない
など……
これらのアイデアはマダミス作家の腕の見せ所です。
対立や葛藤が詰まっている辞典です。あまりにマダミス向きの良い本なのでご紹介したくないですが……!
対立・葛藤類語辞典 上巻
http://filmart.co.jp/books/playbook_tech/conflict_thesaurus1/
キャラクターにとって絶対に隠したい秘密や葛藤
絶対に必要な条件は、「キャラクターにとって絶対に隠したい秘密や避けたい葛藤」であり、「事件解決に協力するとばれてしまうかもしれない秘密・避けられない葛藤」であることです。
キャラクターにとって絶対に隠したい・避けたい理由に納得感が高ければ高いほど、プレイヤーはキャラクターの理解が深まり、ロールプレイに熱が入るでしょう。
秘密がばれたら・葛藤が悪い方の結果となるとどうなるか
- 正体がばれると村・コミュニティから追い出される
- 自分のアイデンティティに関わる問題
- 怒られる
- 投獄される
など、悪い方の結果となった場合、どういう不都合があるかも個別資料に記入しましょう。
これはキャラクターの思い込みで構いません。
たとえば、実は女装して女子校に通っている男性キャラクターは、男だとバレたら退学だと思い込んでいるかもしれません。でも周りはとっくに男だと気づいていて受け入れているかもしれません。
実際秘密がばれた時どうなるかではなく、キャラクターが秘密がばれたらどうなると恐れているかを書きましょう。
マダミスでは秘密はばれるもの
基本的に、マダミスでは秘密はばれていくものです。いくら葛藤していても変化を強いられます。
最後まで隠し通せる場合もありますが、全て明らかになってしまう場合もあります。
絶対に隠せる秘密はつまらないものです。
逆に、確実に明らかになってしまう秘密も、プレイヤーから不満が出ます。
隠し通せるかどうか、ギリギリのゲームバランスに調整することで、ハラハラするマダミスの面白さが味わえます。このゲームバランスについてはまた別の記事で書きます。
ここでいう「バレるかギリギリの秘密」は、事件にかかわるクリティカルな秘密を差します。
ちょっとした目撃情報など、「バレて良い情報」とは区別して考えましょう。
プレイヤー目線では「秘密の漏洩に繋がる情報」なのか「バレて良い情報」なのかは判別できません。判別できないからハラハラを生みます。
しかし、作者は「バレるかギリギリだけれども絶対キャラクターは隠したい秘密」と「バレて良い情報」の区別はつけておきましょう。
秘密を隠すことは必ずしも第1目標ではない
また、「秘密を守ること」が第1目標で無いキャラクターも多いです。
たとえば、「秘密がばれたら殺される」という設定のキャラクターなのに、「大事な人を守る」ことが第1目標のキャラクターもいるでしょう。自分の死より、愛を優先するキャラ、良いですよね。
秘密のまとめ
マダミスに置いて、事件解決に積極的になれない「秘密」が各キャラクターに必要です。
この秘密はバレたり、バレなかったりします。
秘密を隠し通すことは必ずしも第1目標ではありませんが、秘密がばれた際どうなるとキャラクターが思っているのかは必ず記すようにしましょう。
まとめ
今日はバックストーリーと内面の悪魔との葛藤(キャラクターの秘密や葛藤)について書きました。
なかなか終わらない!
明日は続きを書きます。お楽しみに。
マダミスアドカレチャレンジについて
マダミスアドカレチャレンジと題して、マダミスの作り方を12月1日~25日で書けるだけ書いくチャレンジをしています。
チャレンジ終了後、記事は一部非公開にして、pdfの電子書籍+穴埋めフォーマットを付けてBOOTHなどで販売予定です。
クリスマスまでの間、しばしお付き合いください。明日もどうぞお楽しみに。
アドカレへの飛込参加も大歓迎です。お気軽にどうぞ。
https://adventar.org/calendars/8221